ケンゼン 男子中学生 家に上がって部屋のドアを開けるなり開口一番、「獄寺のエロビの隠し場所ってどこ?やっぱベッド?」そんな無礼千万極まりない女を部屋に残しておいてよかったものかと思いながら、スーパーで買った八分の一カットのスイカに包丁を入れた。八分の一カットといえどスイカは一人で食べるにはデカ過ぎるし、けどその分食いたい欲求も募り、が家に来るってんでそれをいい機に少し高いものを買った。真っ赤、というわけではないが糖度は高いらしい。そういえばいつの間にか半袖で過ごす気温になったなあと思った。もうすぐ梅雨が来て、そうしてその次にはすぐに気だるい夏が来るのだろう。夏は嫌いだ。学校はクーラーがないから尚更だ。暑い、イライラする、煙草が吸いたい、でも暑い、イライラする、そんな悪循環。バッドチェイン。台所のステンレスが鈍く銀色に光っている。この家のクーラーの出番ももうすぐだろう。 大皿に乗せて、吐き出した種のための小皿も忘れない。二人で6カット・・・楽勝で食いきれるだろう。大口開けて美味そうにかぶりつくを想像して、それから何俺一人で笑ってんだきめぇ、と我に返って緩んだ口元を無理やり手で押し戻した。 部屋に戻ると、の姿が無い。どこいった、と思い首をめぐらせたがすぐに答えは出た。ベッドに上半身つっこんでゴソゴソやってやがって何してんだコイツ暑さで頭が更に沸いたかって思うのと同時に答えはすぐに出た。 「な、に、し、て、ん、だ、お前は!」 ベッドから引きずり出す。ずるずる引っ張られながらぎにゃあだのなんだの奇声を発する。女どころか同じ霊長類だとも思えない。 「こんなとこにエロビはねえ!」 「えっじゃあ他の場所に隠してんのか!」 「(こいつ・・・!!)」 無言でゲンコツを脳天に叩き込めばは「痛い!」ときゃんきゃんわめいた。そりゃそうだ。痛くしたからな。 恨み言を呟くを放っておいてスイカに手を伸ばす。一番甘くて大きい真ん中のを。先っぽにかぶりついた。甘くて美味い。一気に喉が潤う感覚がして、今更喉が渇いていたことを思い出した。しゃくしゃく、と一気に真ん中ほどまで食った後、いつのまにか静かになったを見る。ベッドに上半身をうつぶせにして顔を押し付けるようにしていて、具合でも悪いのか若しくは強く叩きすぎたかと一瞬焦った、がどうやらそうでもないらしい。 「お前何してんだ?食わねえのか」 「・・獄寺ー」 「あん?」 「この布団、獄寺の匂いがすんね」 ベッドに押し付けていた顔を上げて、俺に向かって笑う。シーツの跡がの頬に赤く残って何時もよりもさらに馬鹿に見える。 「わたしすきだなー、獄寺の匂い」 「・・・そうかよ」 ああ、駄目だ、駄目だ、やばい(うれしい恥ずかしい好きすぎて)顔に血が上るのが手に取るように分かって、落ち着こうとすればするほど頬も耳も首も何もかもが熱を持ち出す。やべえ。こいつ馬鹿じゃねえのか。こいつ可愛すぎて、もう俺のほうが、馬鹿じゃねえのか?ちらっとを見れば、ベッドに顎を乗せて窓の外を見ている。天気は曇りだしじめってしてんのにそこだけ爽やかな風が吹いているように見えて俺の目は本格的におわっていると思った。見た目も細くて実際抱きしめると更に細い華奢な背中をちらっと見れば、白いシャツに浮き上がる横一線も背徳的であり・・って何言ってんだ俺詩人か?!超ポエマーだな?!背徳的とか中学生が使う台詞じゃねえぞ!なに見てるんだ俺ホント何見てるんだ俺、あー、えー、と、あれ、透けて見えるの、ブ、ラ、だよ、な?・・・ッアーーーー!!落ち着けー俺落ち着けーあんなもん学校でしょっちゅう見てるだろうがいっつも透けてるからちゃんとシャツも着ろって散々言ってるのになんで俺の部屋だと何か見ちゃいけないようなもんに思えるんだ?!・・・ト、トイレ行くか・・いやブラごときで・・いや・・うん・・・ 「・・・」 「どしたの、獄寺」 ゆっくり立ち上がった俺を不審そうにが見た。俺はグラグラしてフラフラして、視界全部がチカチカするっつーか、うん、もう限界。いろいろ限界。トイレ行ってくる。何するのとか、ホント聞くな頼むから 「ちょっと、獄寺のスイカ全部食べるよ?」 「・・俺もういらね」 「え?ちょっと、どしたの」 の声にもかまわずドアを開けた。ドアノブにかけた手にポタッと水滴が落ちて、自分が汗だくなことに始めて気づく。あーもーほんとやってらんね。「どしたの?どしたの?」って馬鹿みたいにいちいち聞いてくるを振り返って噛み付くように叫んだ。 「オメーのせいだよ!」
2008/06/29
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