ゴトンというよりガッというかゴキッというか、それよりももっと大きな音が僕の耳と頭の中に響きました。その直ぐ後にぐわんぐわんとこれは耳鳴りでしょうか?車酔いの十倍ほど激しい吐き気が僕を襲います。ああ、朝食べたサンドイッチが僕の胃からせり上がってきて、ああ、強い塩酸で喉が焼ける感覚がします。折角朝ごはんを食べたのに・・・とっても非生産的ですね。食料大国ニッポン。食料大国ニッポンとか地球温暖化だとかとってもエコ的なことを考えている僕は今げえげえと朝は卵サンドイッチだったものを吐き出しています。これはかなり人に見られたくない光景です。しかしこの僕を見つめる人間が僕の目の前にいます。僕の鳩尾に強烈なニーキックを打ち込み、そのまま僕の髪を持って頭を床に打ち付けた張本人です。床はコンクリートむき出しでざらついているから額に傷がついたかもしれません。まあそんなこと、猛烈な吐き気に比べればどうともないことですが。とりあえず僕は元卵サンドイッチの固体液体を吐き続け、は立ってじっとそれを眺めています。見下ろしています。禍々しいよりも異様な光景ですね。ありえませんね。何してるんでしょう僕たち。


「汚い」


ウワッウワッこれが君がやったんですよ?とは言えません。二発目の蹴りが恐ろしいわけではなくて、髪の毛をむしられるのが嫌なわけではなくて、あっ髪の毛むしられるのも嫌なんですけどってあっあなたっ今貴様のパイナップルみたいな後ろ髪なんぞひっこぬかれてしまえなんて考えましたね?呪いますよ呪ってやるっ。とりあえず僕は卵サンドイッチと格闘していて反論反発返答どころではないんです。こんなに僕朝ごはん食べましたかというぐらい卵サンドイッチが・・ああ・・高コレステロール摂取しすぎですかね僕。
は僕を見つめるのに飽きてしまったようでさらさらの美しい絹のようなの髪の毛を指でもてあそんでいます。ああ、鈍い光が映ってとても美しいですねと思って見ていたら、思いっきり嫌な顔で僕を見ました。そりゃそうですね。げえげえ吐いてる男に恍惚とした表情で見つめられたって気持ち悪いだけですよねっ。




「あの、、水をいただけませんか?」
ひりひりして喉が焼けてしまいそうですと涙目を擦りながらようやく止まりかけた吐き気と共に訴えました。


「むーくろー」


は僕を一瞥もしません。髪をくるくるもてあそんでいます。それはそうです。の髪の毛はとても美しいので僕に興味を示すよりも髪に興味を示すのは自然の摂理と言うものです。


「わたしアイス食べたいな」


バニラ。形の整ったピンク色の唇が僕にそう告げました。僕は今さっき吐いた卵サンドイッチを見つめます。この掃除はどうしたらいいんでしょうか。ほっといて先にご所望のハーゲンダッツバニラアイスを購入してくるべきなのでしょうか。僕がぼーっと見つめているとは美しく怪訝な表情をして僕のさっき吐いた、まあそうですねてっとりばやくいえばゲロです。ゲロを一瞥した後それ以上の汚いものを見るように僕を見やり、「鈍間。」と吐き捨ててさっさと部屋を出てしまいました。
僕はどうしたらいいのか五分ぐらいわかりませんでしたが夏ですしいくらここは影が多く風通しがいいとは言えゲロを放置しているというのも不衛生極まりないので掃除をすることにしました。が帰ってきたらそこを嘗めろと言われかねないので丁寧に掃除しました。洗剤も念入りに落としました。 水も飲みたいのでミネラルウォーターをとりに行こうとも思ったのですが部屋には犬と千種がいるのを思い出してやめて水道水を飲むことにしました。こんな姿を見せたくないという、まあ僕にもプライドというものはあるのです。




十分ほどしてはコンビニ袋を手に提げ帰ってきました。バニラアイスとチョコアイスが一つずつ入っていましたがもちろんどちらともがソファに座って食べます。美しい脚を投げ出して食べます。コンクリートむき出しのごつごつの床に正座する僕はそれらを口にしません。の唇の端にチョコレートがついていてそれはもう妖艶で可愛らしくて美しくて。僕はそれを嘗めとる舌を見つめるのに夢中になっていたため手招きされていることに数秒気づきませんでした。あと少し遅れていたら僕はさっき飲んだ水道水と胃液まで吐かなければならなかったかもしれませんね。
僕は立ち上がっての傍に立ちすくみます。はすっと立って無言でソファを指差しました。座って、という意図なのでしょうか?何故?でもやっぱり僕はもたもたして胃液を水道水を吐き出したくはないので大人しく座りました。僕はを見上げましたがはまだチョコレートアイスを食べ続けています。ふいにが僕を見下ろして、足で僕の股間を指し示しました。


「ジッパー下げて」


一瞬思考はショート寸前でしたがもたもたしている暇はやはりありません。えっいつの間にこういう雰囲気になりましたっけなんて考えながらジッパーを下げました。と同時にの足が僕の、その、何ですか、いやこんなところで僕が恥らっても気持ち悪いだけということは重々承知なんですが言いにくいものは仕様がないのですとりあえず僕の、うん僕のをぎゅうと踏みつけました。息?止まりますよそりゃ。一瞬意識が白くなって、ちかちかした視界に入ってきたものは、あ、うわあ・・・


「早漏。」


い、いつもはそんなことありませんよっ貴方の唇と舌があまりにも美しくてですねっと反論したかったんですがは足を動かし続けていて僕の口から出るのは必死に押し殺した息だけです。


「早漏の上に変態だなんて救いようがないね?むくろ、」


ええ、まったくそのとおりかも、しれません、ね、う、うあっ・・は美しい脚一本で器用にバランスを保ちアイスを食べながら足を動かし時々強く僕の物を踏みつけます。チョコレートの甘ったるい吐息が鼻先で香るような気がして、僕は気が変になりそうになります。不意にその足の動きが止まり、降ろされました。どうしたのでしょうかとぼんやりする目をむければはチョコレートアイスを食べ終わったのでしょう、ちゃんとビニール袋にゴミを入れてバニラアイスを取り出すところでした。僕ですか?もちろん生殺し状態ですよ。脱力してソファに座ってとろんとした目でを見ています。は気まぐれなので続きはないかもしれませんね。この形勢だって気まぐれですし。日によっては立場が反対だったりするんですよ、不思議でしょう?まあ僕は気まぐれというよりもなら何でもいいので異論はありません。カップを開けたはスプーンを持つ手を止めました。どうしたんでしょうか。あんなにバニラアイスを食べたがってたのに。異物混入騒ぎでしょうか?昨今の日本はいけませんね、食品偽造大国ですから。でもどうやらそうではないらしくてはアイスを見てなにやら考え込んでいます。そうして僕を見て、またアイスを見て、それからしゃがみ込み・・って


「な、な、な、なにやってるんですかっ、う?!」
冷たい感覚が僕をというか僕の物を襲います。震え上がるような、感覚が突き抜けます。?!そんな、そんなものにアイス塗ってどうするつもりですか?!というかアイスで感じる僕って何なんですか?触れる物なんだって良いって訳ですか?!節操なしですか?!いやそんなことありませんよこれはだからであってだからだからであって、とか言っているうちに全部のアイスを消費してしまったは、やっぱり丁寧にゴミになったカップをビニール袋に入れました。地球に優しいです。しかし僕に優しくないです。次第に溶けていくアイスをじーっと見つめています。生殺しですか?これはどう見ても生殺しですね?ここでもし僕の理性がふっとべば自ら手を伸ばしてしまうようなもんですがアイスついてますからね?手がベトベトになるのは嫌ですよね?あっまあそんなこと言ってる場合じゃねえだろ踏まれてアイス塗りたくられて感じてんじゃねえよこのド変態とののしられる事決定な僕が今何したって変わらないんですけど。


「あ、の、、」
「はぁい?」
「おねがいしま、す、くるし、いので、どうにか、してもらえません、か?」
「ふうん」
道端に落ちてる石ころのほうが関心興味の色をもった目で見つめられるんだろうなあというぐらい無関心などうでもいいような目で一瞥されました。ちょっ僕気持ち悪い声出してまで言ったのにと思いましたらが形のいい唇でにこぉとそれはもう天使のごとく微笑んで言いました。


「変態。」


あーんと開けられた口と赤い舌が絡みました。ちゅくちゅくと水音が響きます。自然さらに質量が大きくなるのを感じながら、の舌はさながら生き物の如く器用に動き回ります。
「あっ・・ふ・・」
僕の食いしばった歯と歯の間から女のような気持ち悪い声が漏れ出ますが、は少し嬉しそうに楽しそうにします。アイスはほとんど溶けかかっていて、それと共に冷たくなった性器にじんわり熱がともりそれさえも疼きに変わるので僕本当どうしたらいいんでしょうか。はひくひくだらしなく震える性器の先をじゅっと吸い、それから裏までつつぅと嘗め上げます。その舌のなんと赤い事!はあぐあぐと咥え続けます。老朽化に伴って弾力を失いつつあるソファを掴むしか行き場のない手は滑ります。だんだん意識が白濁していくようで、ああ、もう、やばい、かもしれません
「ッ、、」
限界が近いことを知らせたのに、は離れません。今口内に射精でもしたら僕は確実に明日の朝日を拝めないに違いないので理性意識人間尊厳総動員で頑張りましたがとこんなことをしていること自体既にそれらは塵芥となって消えたも同然なので普通にむりでした。イコール射精しました。最悪です。目の前チカチカします。しかしそれを口内で受け止めたは飲みづらそうにして若干眉を潜めながらもくっくっと喉を鳴らしました。


「それって、おいしいんですか・・・?」
「・・不味いに決まってるでしょ」


うえっと吐くまねをしてペットボトルに手を伸ばし、ミネラルウォーターを口に流し込んでこくこくと今度はスムーズに喉を鳴らします。どうせくれないだろうなあと思っている僕の手にペットボトルが握らされたので、あれ、これもういらないんですか中身入ってますよ?捨てるんですか?と思っていたら「飲まないなら返しなさい」と言われましたすいません飲みます。けど一体どうしたことかと思っているとがスカートをたくし上げて、あ、そうです前から思ってたんですがのスカートは短すぎじゃありませんか?パンツ見えますよとか思っていたらは自分のパンツをずりさげて、あ、今日は黒でレースですかと思う反面なるほどこういうことかと思いました。僕にまたがって押さえ込んではにやあと笑います。美しく。妖艶に。可愛らしく。情けない話ですけど僕明日立てないかもしれませんね。











チョコレートの魔物









2008/07/11